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「くそっ、何でだ!?」
僕は柄にも無く悪態をついた。この仕打ちはないだろうと思った。
せっかくエルの大切なものを取り戻したのに、ここで閉じ込められてしまっては意味が無い。
力ずくで開けようにも、正直なところ僕は既に満身創痍だった。
エルの魔法で間一髪助けられたものの、それまでに受けたダメージはさすがにこの短時間では癒えない。
体の何箇所かは深刻な火傷を負っており、この緊迫した状態でなければおそらく痛みで転げ回っているような状態だ。
「グレン、下がって!」
エルの鋭い声が聞こえた。
彼女は扉に手をかざし、その指先には白い光が灯っていた。
僕が慌てて身を引くと、次の瞬間――
ドオン、という音と共に、扉の鍵の部分で派手に火花が散った。
「爆発の魔法よ。これならどうかしら!」
僕は今度こそ、と思い扉を蹴っ飛ばした。
だが、それでも扉は開かない。
「もーっ!なんでさっきのドアといい、ここの扉も開かないのよー!」
「さっきの?」
「私たちが寝てた部屋よ。あんたを起こす前に、どうしてもドアが開かないから同じ魔法を試したの。ここの扉と同じで、びくともしなかったけど・・・」
そうだったのか。こんな爆音がする魔法をすぐ傍で唱えられても、僕は起きなかったのか。
僕はふと、先程の部屋のドアを開けた時の事を思い出した。
あの時、確かに僕はドアに手を触れなかった。間違いなく、ドアに触れる前に勝手に開いたのだ。
思えば、夜中に目が覚めてから不思議な出来事が立て続けに起こっている。
寝る前に暖炉の脇に置いた棒が無くなっていたり、トイレの扉から勢い良く吹き出した炎がちょうど僕たちの目の前で止まったり、枕が黒焦げになっているのにも関わらずエルのポーチには焦げの一つも付いていなかったり……それに、今のところ僕たち以外の人の気配も全く無い。
もしかしたらこの宿は、普段の常識が通用しない空間になっているのではないだろうか。
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