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僕は、もっと記憶を遡る。
宿屋の女主人に部屋を案内されたあと。
僕たちを迎え入れるように火が灯っていた暖炉。
ベッドに潜り込んだ時の異様な睡魔。
これまでの不思議な出来事が単なる偶然ではなく、何かの意思によって必然的に引き起こされているとしたら―
そこまで考えて、僕は次に何をすべきなのか、なんとなく理解した。
それが狩人としての直感なのか、一連の出来事を引き起こしてきた"何かの意思"が意図した通りなのかは分からない。
一度深く息を吸い込み、呼吸を整える。
ここまで来たら、焦っても仕方ない。それに、きっとすぐに炎がこのロビーを燃やし尽くすことは無いだろう。何故だか、確信に近いものを感じていた。
「エル、さっきの水の魔法、もう一回使えるかな?」
エルは、僕の意図を掴めずにいるようで、困惑した表情を見せた。
「頑張れば使えると思うけど…凄く疲れるしあまり使いたくないけど…でも、あの魔法がここの扉を開けるのに役立つようには思えないわ」
「直接的には役に立たないだろうね。でも、この扉を開ける"鍵"を見つけるにはきっと役に立つ。」
「鍵? 悠長にそんなもの探してる余裕あると思ってるの!?」
「僕に考えがあるんだ。」
僕はいったん言葉を区切る。
エルが上目遣いで僕をにらみつけた。
「なによ。もったいぶらずに言いなさいよ。」
「ここの女主人を探そう。僕たちを部屋に案内してくれた彼女だ。多分、まだこの建物の中に居る」
「はあ、何言ってんの!? もうとっくに逃げ出してるわよ。それに、きっとあの女がこの扉を閉めたんだわ。最初から、怪しいと思ってたのよね。」
エルも、彼女なりにこの件について考察していたようだが、いつもながら僕の意見とは違うようだ。
もっとも、一部を除いては。
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