第2話「忘れられた宿」

13/19
前へ
/102ページ
次へ
 僕は、もっと記憶を遡る。  宿屋の女主人に部屋を案内されたあと。  僕たちを迎え入れるように火が灯っていた暖炉。  ベッドに潜り込んだ時の異様な睡魔。    これまでの不思議な出来事が単なる偶然ではなく、何かの意思によって必然的に引き起こされているとしたら―    そこまで考えて、僕は次に何をすべきなのか、なんとなく理解した。  それが狩人としての直感なのか、一連の出来事を引き起こしてきた"何かの意思"が意図した通りなのかは分からない。  一度深く息を吸い込み、呼吸を整える。  ここまで来たら、焦っても仕方ない。それに、きっとすぐに炎がこのロビーを燃やし尽くすことは無いだろう。何故だか、確信に近いものを感じていた。 「エル、さっきの水の魔法、もう一回使えるかな?」  エルは、僕の意図を掴めずにいるようで、困惑した表情を見せた。 「頑張れば使えると思うけど…凄く疲れるしあまり使いたくないけど…でも、あの魔法がここの扉を開けるのに役立つようには思えないわ」 「直接的には役に立たないだろうね。でも、この扉を開ける"鍵"を見つけるにはきっと役に立つ。」 「鍵? 悠長にそんなもの探してる余裕あると思ってるの!?」 「僕に考えがあるんだ。」  僕はいったん言葉を区切る。  エルが上目遣いで僕をにらみつけた。 「なによ。もったいぶらずに言いなさいよ。」 「ここの女主人を探そう。僕たちを部屋に案内してくれた彼女だ。多分、まだこの建物の中に居る」 「はあ、何言ってんの!? もうとっくに逃げ出してるわよ。それに、きっとあの女がこの扉を閉めたんだわ。最初から、怪しいと思ってたのよね。」  エルも、彼女なりにこの件について考察していたようだが、いつもながら僕の意見とは違うようだ。  もっとも、一部を除いては。
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加