83人が本棚に入れています
本棚に追加
*** *** *** *** ***
その日、僕は昼間からじっくりと煮込んでいたシチューを器に注ぎながら、長い冬の夜をどう過ごそうかと考えていた。
去年の冬は、ふもとの町の書店で買い込んだ本をひたすら読んで過ごした。読書という趣味はほんの数年前から始めてみたけれど、これがなかなか良かったので、今年も同じ書店から大量に本を買ってきていた。
「うん、本を読んで過ごそう。そうすると、どういう順番で手を付けたものか。やっぱり冒険記かな。」
歴史を綴ったものや物語、料理に関するものなど色々と読んでみたが、一番気に入ったジャンルは冒険記だった。とても限られた生活範囲の中の世界しか知らない僕にとって、文章越しに伝わってくる未開の地の風景、様々な国の人々の暮らしの様子、またそれらの地を巡る書き手の興奮などは、とても刺激的だった。
シチューを食べながら、テーブル越しに本棚を見る。以前買った本は全て燃やしてしまったため、いま棚に並んでいる本は全て新しく買ったものだ。
「そうだ、あの著者の本は面白かったなぁ。でも、他の著者の本も気になるな。」
最初に読みたい本が決まったのは、ちょうどシチューを食べ終わる頃だった。これから読む本は、僕にどんな冒険をもたらしてくれるのだろうと胸を躍らせる。
しかしこの後起こる出来事によって、結局その本を読むことは叶わなくなってしまった。
器を片付けたら早速読み始めよう― そう思って立ち上がった、次の瞬間だった。
ごろごろごろごろごろ。
雪の積もった山の斜面を、何かが転げ回るような音がした。音はだんだん大きくなり、その"何か"がかなりの速度で小屋に近づいてきているのが分かった。
僕はシチューの器に手を添えたまま固まった。雪崩かもしれないと思い、背筋が凍る思いをした。
ごろごろごろ。
"何か"は小屋に更に近づき、横切り、そして―
ごすん。
"何か"は、別の"何か"に鈍い音を立ててぶつかり、止まった。
どうやら、雪崩ではなかったようだ。
ひとまず小屋が潰れずに済んだ事に安堵したが、静寂を突き破って訪れた"何か"の正体を確かめなくてはならない。
鹿の毛皮を剥いで繕ったコートを羽織る。そして火を灯したランタンと薪割り用の柄の長い斧を手に、外へ出た。
最初のコメントを投稿しよう!