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「もし、あんたが良ければさ…」
彼女はここで言葉を区切る。コップに手を添えたまま、まだココアを飲まない。
伏目がちに話す彼女に釣られ、僕も下を向く。
僕は黙ったまま、次の言葉を待った。
それは実際には数秒だったかもしれないが、僕にはずいぶんと長い時間のように感じた。
やがて彼女の指先がピクリと動き、反射的に僕はそれを目で追う。
次の瞬間― 彼女はまだ十分熱を持っていたであろうココアを一気に飲み干し、ガタンと音を立てて立ち上がった。
キッと僕を見据え、腕を組む。
「いいや、やっぱりあんたの都合なんか関係ない。私と一緒に来なさい。そして賢者の石を見つけて、その存在を否定したことを後悔させてあげるわ!」
一瞬で元気を取り戻したエルは、やはり瞳をキラキラと輝かせていた。
―――石の存在を否定したつもりは無かったんだけどな。
彼女の言葉の後半の、石の存在を否定した、という部分について否定したかった。
そして前半については、僕の中でもう答えは決まっていた。
ようやく待っていた言葉を言ってくれた、とさえ思った。
僕は残っていたココアを飲み干すと、座ったまま、彼女を見上げて言った。
「うん。いいよ。」
僕の返事を聞いたエルは、満足そうに頷いた。綺麗な黒髪が、さらりと揺れる。
「そうこなくっちゃ。よろしくね、グレン」
「よろしく、エル」
そのとき、初めて互いの名を呼んだ。僕たちが見知らぬ他人から、"仲間"になった瞬間だった。
彼女のにこやかな笑顔に釣られ、僕も微笑んだ。
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