0人が本棚に入れています
本棚に追加
つまり、そういう役回りだってことは何年も前から気づいていた。
今日もこれ、何杯目だろう。
これは普段の事なかれ主義がたたっているのだと反省し、改めようと思うが、一度付いたキャラというものはなかなか覆すことができないもので
「だったら芳樹と付き合っちゃえば良いじゃん」
などと雄二が女子とのチャラい会話で引き合いに出すのはたいてい僕なのであって、また来たよ何度目だよ、今度は誰だよ、と思えば文子で
「えー、芳くんとか、絶対ありえなーい」
と下品に笑っている。
いや、お前などこっちから願い下げだ、お前自分の顔横から見たら顎が戦艦大和のバルバスバウみたいに見えるのを知ってるのか? などと内心では思いつつも僕は
「なんでだよ。文ちゃーん。畜生、また失恋しちまった」
と空になったジョッキをあおる。すると
「だんな、ジョッキが空ですぜ」
と、ピッチャーからなみなみ注がれる忌々しい黄金色の液体はビールだ。
「いや、俺は今日は飲みすぎたみたいや」
僕は固辞するもあろう事か文子が
「まあまあ、失恋記念だよ」
と隣の雄二の肩に手を載せながらこちらを見れば、戦艦大和のボディタッチに気を良くした雄二も
「こういうときはとことん飲んで忘れちゃいましょう先生」
などといってイッキコールをあおる。会場の名前もおぼろげなその他大勢は加賀の本願寺に集まった一向宗徒のごとくイッキイッキと狂ったように叫び、その集団催眠的なコールは僕に一種の高揚感をもたらし、そろそろ死ぬかもしれないが、ここで死ぬなら本望だという気にさえさせる。
最初のコメントを投稿しよう!