1:Sleepers, Awake!

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 オオカミ自体は僕も動物園で何度も見たことがあった。ホラー映画で見るような凶暴さなんてかけらもないと知っているし、仲間同士では厳しさと同時に愛情深さもあると分かっている。しかし、目の前でがぶりと食べ物を引き千切り、あっという間に平らげる様を見せられては、その異質さに身構えずにはいられなかった。  食べたいときに食べ、言いたいことは言い、やりたいことをやる。アニェス・ディオールとはそういう生き方の女性だった。 「……第二級民の義務は、人類の活動に奉仕し、太陽系圏に於ける繁栄を補佐すること――要するに人間様の奴隷として働けってことよ。あなたは法律上一度死んだから、普通の人間と同等には扱ってもらえないの。それが嫌なら同意せずに安楽死って選択もあるわ」 「全く異なる時代に適応するのも過酷なもので、過去の記録によると、同様のケースで四人中三人は精神を病み、一人は早々に自殺した。どれも六十歳以上の偏屈年寄りだったようだけど。あなたほどの若さなら、この状況を柔軟に受け入れて生き抜く覚悟を持っていると、少なくとも私はそう思っているわ」  僕を見据える彼女の瞳には、相変わらずいたわりも優しさも込められていない。この先待ち受けているであろう試練に対し、僕がどちらの決断を下すのか、ただ冷静に見定めようという目だ。もしここで僕が死を選んだとしても、生きた鶏を絞めるようにさっさと睡眠薬の手配を進めてしまうだろう。     
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