2:New kid in town

22/28
前へ
/95ページ
次へ
 アレックスが言っていたように、一連の歴史を詳しく紐解こうとすれば丸一日かかっても足りないだろう。それでもリカオンがどういう立場なのかはこれでわかった。猿の惑星と違って、リカオンが人間に対して卑下したり奴隷扱いするようなことはない。 「それにしてもダニエル君はとても運がいいね。さっき出てきたベテルギウスの大爆発、それが今まさに起ころうとしているんだよ。数年後か、早ければ数ヵ月後、観測史上最大の天体ショーを君は目撃できるんだ。まるでベツレヘムの星の下に生まれたメシアのようだねえ」 「そんな大げさな……でも、今度は間違いないんですよね」 「観測精度も当時とは比較にならないさ。もう臨界点に達する限界まで来ていてね、今夜突然輝きだしても不思議じゃあない。空がもし晴れていたら今夜にでも星を探してごらん。オリオンの健在な姿を目にできる最後の機会だからねえ」  僕は左肩を失ったオリオンを想像してみた。調和の取れた四角形の一角が消え去って、残されたのは傾いだエッフェル塔のような三角形。そうなってしまうとやっぱり格好がつかない。神話の英雄には堂々といてもらいたいし、でなかったら新しい星座を作ってあげないと無様でかわいそうだ。  そんな天文地図を書き換える一大イベントと来れば、誰だって心躍らずにはいられない。僕の口元が自然にほころぶのを見て、ジャンは自分の語りに満足したようだった。     
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加