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ペットのしつけじゃあるまいし、という続きは、血相を変えてアレックスが部屋から飛び出してきたせいで中断された。いったい何事かとたずねる間もなく逃げるようにして庭のほうへ突進、また窓ガラスを突き破らんと跳躍する。
僕とジャンはガラスの飛散に身構えた。とっさに僕は顔を腕でかばったが、数秒たっても輸送していたことは起こらなかった。恐る恐る瞑った目を開けると、アレックスはなぜかジャンプの途中で床に落下している。その首には細長いロープがかかっていて、ぎりぎり絞まる輪をはずそうとじたばたもがいていた。
「い、息が……ぐるしいぃ……!」
ロープは全力で抵抗するアレックスをずるずると強引に引き摺る。長く伸びていくロープの先へ視線を向けると、そこにはまた別のリカオンが立っていた。ドアのノックは無かったから、さっきアレックスが入っていた物置から侵入して来たに違いない。
「やっと捕まえた。あんたの起こした脱走騒ぎのせいで限定ケーキ食べられなかったじゃないの!」
その女性は気性の荒さをそのまま表に出したような、全身が燃えるように真っ赤に包まれている。北風に喧嘩を売る半袖とショートパンツという軽装、逞しく鍛え上げられた腕で暴れるアレックスをロボットじゃなかったら死にかねない勢いで締め上げる。本気で怒った目の鋭さといったら、今日見かけだどのリカオンよりも獲物を狩る野獣らしい。
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