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どうかしらね、と言って彼女はロープの手をやっと緩めた。アレックスがどさりと落下して大きく咳をする。話は一応通じるみたいだ。
「私はアニェス・ディオールよ。もう状況はわかっているでしょうから手短に。私とアレックスはあなたの保護観察を任されているの。で、あなたは? 生意気な口が利けるなら名前くらい言えるわよね」
「……ダニエルです。ダニエル・クラルテ」
「そう。じゃあダニエル、早速病院に戻るわよ。あんまり街中を歩かれるといろいろと困るのよ。迷惑なのが押しかけて悪かったわね」
「もう帰ってしまうのかい? それは残念。商談はまた日を改めて、かなあ」
唐突な打ち切りを告げられたジャンはおどけて肩をすくめて見せた。実のところ、僕はまだどの本にするかをまだ決められていない。与えられた情報を整理するのに手一杯だと、自分の中の望みを見つけるのはなかなか難しい。猶予ができて僕は内心少しほっとした。
すると、ジャンは棚の引き出しから一冊の本を取り出して僕に差し出した。題名の無い、赤い布張りの小さな本。開いてみるとそこには何も書かれていないまっさらな白いページばかり。
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