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「さよならの前に、ダニエル君へささやかな贈り物だ。印刷しなかった日記帳だよ。僕はこういった本を一冊ずつ手作業で編み上げるのが仕事なのさ。素材選びから保存加工まで、君の思い入れのある逸品に仕上げて見せるよ」
さりげなく添えられた彼の名刺には、『生涯の宝物に、永遠の誓いの贈り物に』とある。
本を買う。それはこの時代において僕が考えているよりも遥かに特別なこと。方法は乱暴だったけど、アレックスは彼なりに大きな友好の証を送ろうとしていた。
「やだやだー! もっと外で遊びたいのー!」
「いい加減にしなさい! でなきゃもう一回砂に埋めてやるわよ!」
……単なる退屈しのぎだったかもしれないけど。そうぼんやり思いつつ、再び引き摺られながら玄関に向かうアニェスとアレックスを見送る――そうだ、まだしっかり歩けないのを忘れていた。無意識についていこうとしたら、バランスを崩してローテーブルに倒れこんでしまった。
「大丈夫かい? 無理をすると身体に障るよ」
跳ねたコーヒーが僕の服へひっくり返り、ジャンが慌ててハンカチでふき取る。幸いどのカップにも残っていなかったからやけどはしなかった。でももらい物をいきなり汚してしまい、心の奥がちくりと痛む。
「やっぱりあの杖借りてもいいですか? 傷つけないよう大切に使いますから」
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