2:New kid in town

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「僕としてはそのまま持っていてくれれば物が減って助かるんだけどねえ。なあに、君の足がここに向いてくれるのが一番さ」  知り合いとしてなのか、あるいは商売としてなのかどっちとも取れるけど、とにかくジャンはきたときと同じように、温かく僕らを見送ってくれた。そのうちに、と手を振りながら僕はまた冷たい風の吹く夜道に戻った。  それから僕はアニェスさんが運転するあの奇妙な車両に乗せてもらった。居心地のいい後部座席の中で、今日はやけに疲れたな、とぼんやりする。相変わらずアレックスとアニェスはうるさく騒いでいるが、僕は急にやってきた眠気に大きなあくびをひとつ。  このまま寝てしまったら、ちゃんと明日はやってくるのか、また見知らぬ世界に取り残されやしないか、あれこれ想像したけれどすぐにやめた。何も考えなくたって誰にも明日はやってくる。明日が今日になるまでは、その中身は誰にもわからない。  目を閉じれば眠りはすぐにやってきた。そして、その後は全然夢を見られなかった。  リカオンは人間のために尽くすのが使命だという。同じように僕にも優しさを以って生きる手助けをしてくれるんだろうか。だとしたら僕はその恩をどうやって返したらいいんだろう? 今はまだ、その手助けに甘えるしかない。考える時間は、きっとこれからたくさんあるだろう。
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