Act 1: Everybody wants to be a cat

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Act 1: Everybody wants to be a cat

 晩秋の真夜中は実に気分がいい。ウィスキー・オン・ザ・ロックのようにぴりっと冷えた空気、ほろ酔い気分で薄明かりの街をぶらつくのには最適だ。これから始まるお祭りでどんな楽しいことが起きるのか、想像するだけで家の中でじっとしていられなくなる。  薄雲の隙間から洩れる月光に照らされ、雨上がりの夜霧にけむるロンドン。その隅っこにあってどことなく戦前の匂いを残す住宅街の一角に僕はいる。あちこちひび割れて薄汚れたアパートが立ち並ぶ、暗い裏通りを暇つぶしに散歩しているところだ。学生の集まる地域と言えば聞こえはいいが、裏を返せば格安で住めるボロ家が多いってこと。街灯の整備もろくに行き届かないような区画だから人通りもほとんどなく、壊れかけて明滅するランプをジャックランタンに換えたところで誰一人として気にしない。コツさえつかめばこの一帯は夜遊びに最適なスポットだ。  時刻はもう午前二時、お菓子ねだりに奔走した子供達もとっくに寝静まり、大人達の方もパーティーのお酒に酔い潰れていることだろう。彼等はこれから始まる本当のお祭りを知らない。もし目撃したとしても、きっとアルコールのせいにしてしまうはず。     
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