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腰を抜かして立ち上がれないリーダーの目の前で、魔法のステッキを一振りする。その先端から迸る七色の糸がたちまち僕の身体を包みこみ、やがて真っ黒な燕尾服とシルクハットを形作った。足元のタップシューズも今にも鳴りたくて疼々している。すらりとして洗練されたシルエット、これこそ夜に住む者に相応しいステージ衣装だ。
そして、開幕の合図を僕は高らかに告げる――
「――とっておきのをお見舞いするよ!」
突きつけた右手のステッキから、今度は無数の爆竹が一気に放たれた。ぱんぱんぱんぱんぱん! と、黄色い閃光と小気味よい炸裂が彼等の顔面を直撃し、暗がりになれた彼等の目に大ダメージを与える。
「くそっ、なんだこいつ!」「おい、お前何とかしろよ!」
口々に典型的なやられ台詞を唱えながら、皆己の身を守ることに手いっぱいで誰もリーダーの安全など気に留めやしない。爆発の連打が収まった後は蜘蛛の子を散らす様に一斉に全員逃げて行った――完全に気絶した悪魔マスクを除いて。
「なーんだ、もう終わり? もうちょっと堪えると思ったのに」
たった一発の魔法でパニック起こすなんて、近頃の人間は撃たれ弱くなったものだ――なんて言えるほど年は取ってないけど、神に祈るとか御守りを翳すくらいしてくれたらもっと遊び甲斐がある。ちょっと拍子抜けしちゃったな。
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