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右に、左に、ダイナミックかつ豪放に。ジーン・ケリーのように大きく飛び跳ねて相手を翻弄する。小粋なスウィングジャズをイメージし、時々、たたたん! とタップでリズムを刻んだりして、この奇妙な鬼ごっこにしばし興じる。
こうして僕らがやりあってる間も、あれだけ派手に爆竹を鳴らしたのに、通りに面しているアパートからは様子を窺おうと覗き込むものは誰も出てこない。若造のけんかなど慣れっこなのか、あるいは単に他人への無関心なのか。どちらにせよ、そういった人間達が見落としている隙間の中に僕らは住んでいる。目の前にいるこいつだって、明日の朝になればアルコールの見せた幻覚として終わらせてしまうはずだ。仮に彼が真実として周囲に語っても信じる人なんかいない。僕らは決して見えない存在なんかじゃなくて、《人間が見ようとしない存在》なんだ。
(たぶん)青年が飛びかかり、僕がさっと飛びのく。そんな子供じみたお遊戯を二〇回ぐらい繰り返すととうとうあちらさんは息切れをし始めた。酒で大分ふらついてるし、そろそろ勘弁してあげた方が彼のためか。僕は手近な水たまりの手前で挑発するように挑発する。
「あ~めの中で~♪、歌を~歌えば~♪」
「ぜぇっ、ぜぇっ、なめてんじゃねえ……うおっ!?」
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