Act 1: Everybody wants to be a cat

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 一分ぐらい経過しただろうか、青年がおそるおそる振り向いて辺りを見回した時には、大きなカボチャはもちろんタキシードを着た黒猫もその場から消えていた。彼はカモが絞められたような奇妙な声を発しなから、盗んだバッグを拾いつつそそくさと通りから退散した。  後に残ったのはチカチカするたびに緑や紫に色を変える街灯と、その下の暗がりに隠れた僕だけ。僕は懐から銀の懐中時計を取り出して時間を確認する。思いのほか道草を食ってしまい、集合まであとわずかだ。 「さてと、急がなきゃ」  ハロウィンの始まりはもうすぐ、夜霧の向こう側には年に一度のお楽しみが待っている。そう思うとわくわくしてなんだか踊りだしたくなる。  今年こそ僕だけのジンジャー・ロジャースに出会えますように。そんなことを考えながら僕は誰もいない夜道を急いだ――流麗なクイックステップを靴音高らかに踏みながら。  僕の名はウィリアム・ローレンス、シルクハットとタキシードを着た黒猫。そして、ロンドン育ちの妖精さ。
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