Act 2: Midsummer night’s dream

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 少し残念そうに言うアスカ。悪いことをしたかな、と思っていると彼女が僕を挟んで向こう側の人物に気がついた。僕が後ろを振り返ると、そこにはなんと蝶ネクタイに黒いベスタをお洒落に着こなした獣人姿のフミエが、ステージ右のカウンターに立ってるじゃないか。シェイカーをまるでジャグリングをするように空中へ放り投げ、彼女の姿はどこからどう見てもバーテンダーだ。 「どうだった、なかなか面白いヤツだと思わない? 手品までやるみたいだし逃すには惜しいって。姉さんの色仕掛けなら一発で口説けるかもよ?」  シェイカーの中身が小さなシェリーグラスに注がれ、飾りとしてオレンジスライスをその縁に添える。カクテルと一緒に水の入ったコップをテーブルに叩きつけ、彼女は僕の頭をコツンと軽く小突いた。……ネコサイズの僕には結構痛い。 「グラス触る前にちゃんと手を洗いなさい、後で磨くあたしの身にもなってよね」  ファッションモデルとしても通用しそうなすらりとした長身、よく整えられた艶やかな毛並み、大きなイヤリングを付けた三角耳、誘惑するように揺れる長い尻尾。アスカとはまた違った健康的な色香を纏うフミエはきつい目で僕を睨みつける。……そう言えば踊りに夢中ですっかり忘れていた。コップの水をありがたく使わせてもらい、改めて僕はフミエに向き直る。
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