数え切れないほどの薔薇の花束を

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私たちはお互いがお互いに気づかないふりをしながら一緒に暮らしてる。 ふたりで。 私たちの両親は海外で暮らしている。父の単身赴任に母親がついていった形だ。 結局この家を私たちが引き継ぐ形になった。 兄もいい年だから家を出てもおかしくない。 なんでも、兄と一緒なら安心だからだという。 女の子の一人暮らしは危険だから、誰かと暮らした方がいいに決まってる、それが家族なら安心だというのが両親の持論だ。 確かに安心安全だ。 どっかの漫画のように彼が手を出してくることなんてないし、私も彼を意識していない。 彼は兄弟なのだから。 ーーー嘘だ。彼が手を出してこないのは本当だが、私は完全に意識している。 ”前回”のことを思い出す前だってなんだか違和感を感じていたのだ。 確かに顔は整っているが、実の兄相手にどうしてこんなにも胸がざわつくんだろうって。 そして記憶を取り戻してからはなおさらだ。 ーあんなに大好きだった人。 結ばれることが許されなかった人。 今世こそは結ばれたかった。 彼に恋人がいるかどうかは聞いたことがない。 探ろうとしたこともない。 それこそどっかの漫画みたいに勝手に傷ついて男友達や幼馴染に慰めてもらうルートなんて存在しない。 ひたすらに気持ちを隠し続け、彼のことも知ろうとしなかった。     
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