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第二章 山井章吾
朝の6時には起きては仕事の工場に向かう山井章吾は38歳を目前に控えてはいたが、独り身にはこれと言って楽しみにしている事もなく、学生時代からの腐れ縁の女友達がいるくらいで
「もうじき、あいつも卒業だな」と女友達の息子の事を思い出していると古い軽自動車で職場に向かう章吾のスマホに着信が入った。
島野民子と出会ったのは高校1年生の春、同じクラスになったが人見知りの章吾には話す機会もなく、明るく物怖じしない民子はクラスでドンドン目立っていった。初めに話かけてきたのは民子だった。
「山井君、ちょっと手伝ってほいしいんだけど?」クラス委員に成っていた民子に荷物運びを手伝わされた。
「どこに運ぶの?」嫌々ながら付き合った章吾が聞くと
「ゴメンね~!職員室!うちの担任こき使うんだよね!」民子の飾らないもの言いが章吾には話安い人だなとは感じはしたが決して好みのタイプでは無く、どちらかと言うと苦手なタイプだった。章吾は目立つのが苦手なだけに自分と逆タイプの人間を遠ざける節があった。それから、3年生でまた同じクラスになるまで民子と話すことは全く無かった。
3年の同じクラスの中に綾間雪乃と言う静かで目立たず章吾と似た感じの女性と出会った。章吾はすぐに雪乃の事が好きになり常に様子を伺うようになった。民子と仲が良い事を知ると章吾は自分から積極的に民子と話すようになっていった。
「何処か遊びに行かない?」章吾が雪乃が民子と一緒にいるのを見計らって民子に声をかけた。
「う~ん?今日はバイトなんだよね~、雪乃、山井君と行ってくれば?」章吾の気持ちをまったく知らない筈の民子が章吾に気を効かせた。
「ん?山井君と?どこに行くの?」雪乃は大きな瞳で章吾を見た。章吾は少ししどろもどろになりながら
「カ…カラオケでも映画でも…あ…綾間さん行きたい所、ある?」
雪乃とは映画を観に行った。タイミング良く観たい映画があったようだった。二人で過ごす時間は何とも言えない高揚感を章吾にもたらしていた。
「ま…また、二人で、い…行かない?」章吾は精一杯、雪乃を誘った。
「ん?いいよ!また誘って!」雪乃は大きな瞳で章吾見て言った。
その日以来、章吾は民子を介さずに雪乃に声をかけるようになって、3人で話していても民子には背中を向け雪乃と2人で居ることに貪欲になっていた。3人で遊ぶ事もあったがだいたい2人で過ごす事が多く民子と話す事も減った。
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