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第八章 島野民子
民子の遺体は悠一の元へ還され、近所の大人達の協力もあって葬儀の用意も終わり、することが無くなった悠一は母が落ちた階段の手すりにもたれ夜の風景を眺めていた。
「島野悠一君?」突然、階段をギシギシ男が上って来た。
「私は警察署の蛭田と言います。」そう言うと警察手帳を悠一に見せた。
「少しお話いいですか?」蛭田は穏やかに尋ねた。
「警察には知ってる事言いましたよ?」悠一は疲れた様に言った。
「そうだね、1つだけいいですか?」
「なんです?」
「お母さんは山井章吾さんの事、何か言っていなかったですか?」
「山井?ああ!オモチャのおじさん!…ん~?別に何も…母さんの友達としか聞いてません…」
「ありがとう!辛いところ、すまなかったね…」そう言うと頭を下げて帰って行った。そして、蛭田は確信した、民子が何も言えない状況にあったと
「これは雪乃からだよ」毎年、悠一の誕生日やクリスマスのイベント事に民子の家に訪ねてはプレゼントを置き
「逃げるなよ!誰にも言うな!逃げたり人に言えばこの子は殺すからな!雪乃が要るようになったら返せよ!解ったな!」章吾はいつもそれだけ言うと帰った。民子はただ耐えるしかなかった。民子のイベント嫌いも煙草の数もママ友を作らないのも、学生時代に素性を知られた恐ろしさを知ってからだった。なぜか岬夫婦には山井達に脅されていること以外は話してしまっていた。もしも雪乃の声を聞いていたら発狂していたかも知れない。脅されている事を誰かに知られその事が山井達にばれたら悠一は殺される。18年間、民子は耐え抜いた。悠一の顔を見てるだけでその出来事は民子の心の中に深く沈める事ができたから。民子の生き抜く力になっていたから。絶対に私が悠一を守ってみせると民子は決めていた。
証拠があった訳では無くこれはただの推測、蛭田は散々自分を戒め罵倒したが、そう解ってしまった自分をどうしようもなかった。
「久しぶりだね…民子?」真っ白なロングのワンピースを着た綾間雪乃が民子の家の階段の踊場に立っていた。自分が着ていた桃色のスーツが色褪せて見えるほど美しかった。
「私、行くとこあるから!」強引に行こうとすると、静かに民子の両肩を掴むと
「行かせないよ!ゆっくりお話しようか?」雪乃は優しく告げると、部屋に入り静かにドアを閉めた。
「民子?顔どうしたの?」雪乃はテーブルに2脚ある椅子の1つに座ると心配そうに聞いた。
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