第九章 母

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第九章 母

「卒業式だあ?!しらねぇよ!!」詳しく言う間も無く、思いっきり殴られ民子はみやびから休みを勝ち取った。 「今日はね、私の子供を返してもらいにきたの!」雪乃は清々しく言った。 「民子?聞いてる?」首かしげる雪乃を見つめながら、民子は自分の中で溢れだした恐怖心と戦っていて何も言えず動けなかった。それから数十時間、2人は水さえ飲まずに対峙していた。 蛭田にとっては綾間雪乃にたどり着くには時間はかからなかった。蛭田の情報網は1人が解ればねずみ算式に人脈は拡張した。何故なら蛭田は悪徳刑事と呼ばれる人種だったから、同じ穴の狢の話はいつでも耳に入った。 「はい?どういったご用件でしょうか?」蛭田の前に綾間雪乃は堂々とあらわれた。 雪乃は何故か白い革の手袋したままテーブルに両手を置いていた。民子は悠一が帰って来ない事を在らぬものに祈っていた。 「急にすみません、ある事故を調べていまして」蛭田は島野民子が亡くなった経緯と第1発見者の山井章吾の事を言い、細かい事を調べる過程で同級生だった雪乃に話を聞きに来たことを伝えると、雪乃は大きな瞳を見開いた。 「そうなんですか?悲しいことです。友人だったのに…」雪乃は声で悲しんだ。 出勤途中に山井章吾は雪乃に連絡を貰うとそのままスマホで仕事場に病欠の連絡を入れ、実際に近くの病院へ向かい腰痛悪化の診断書をもらうと、慌てず民子の家に向かっていった。 「コンコン、」民子の部屋を誰かがノックした。 「ねえちゃん、いないんか?ねえちゃん?」咲枝だった。2人は微動だにしなかった。 「コンコン、コンコン、自転車あるのに?歩いて出かけたんか?」咲枝はひとしきり独り言を話して帰って行った。 蛭田はこの何でも手に入る状況になったおり自分に楔を突き立てた。決して感情に左右されないと。そして何故か初めてその楔を抜いた。つけは警察署に帰った時に突き付けられた。 「蛭田君、良く動いている様だけど、明日から少しの間、他県に勉強会行ってもらえるかな?断れば、早期退職だけどね…」一方的にそう上司に告げられると蛭田はなにも言えず、ただ家族を思った。 「どうして今なの?」民子が聞くと 「今、あの子が必要になったの!解らない?」雪乃は子供の様にクスクス笑って言った。 「迎えに行くのか?」山井は助手席の雪乃に聞くと 「今、あの子が必要になったの!解らない?」雪乃は子供の様にクスクス笑って言った。
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