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「いい天気じゃのう・・・もうすっかり春じゃ・・・」
「ああ、ぽかぽかという言葉そのままだよな・・・・」
アニューはよく晴れた日の午後にフィッシュとミッチェをある場所へ呼び出した。
きっとここを気に入って喜んでくれると信じていたから・・・
「今日は何だよ、こんなところまで呼び出しやがって。ようやく俺に喰われる気になったか。」
「何バカなこと言ってんだミッチェは!
春になったら、しなければならない大切なことがあるだろ。」
アニューは咥え煙草で、得意げな顔をして二人に言い放った。
「知らねえよ。言っとくけど、俺はアニューとは絶対やらねぇぞ。」
「んな事、わかってるよ!
ミッチェはヤダね・・・ロマンがない。
春が来れば春の、夏がこれば夏の楽しみがあるだろ。」
「ロマン・・・それはドーナツの穴から見える景色じゃ。
だが、最近のドーナツは穴がないのが多い。アレはいかん!
ロマンがない・・・だが、ぱかっと割ったとき、イチゴジャムがトロッと出てくると、また違った喜びがあるがな。」
フィッシュはニタニタと笑いながら、煙草の煙をふわっと吐いた。
「花見だよ。
春は花見だ!
日本人は桜の花が咲くと、木の下で飲んだり食ったりするらしい。」
「へーじゃあ、木を店に植えちゃえばいいじゃん。」
「そういうんじゃダメなんだよ。ココへ来るという事が大切なんだ。
コノ花が咲くコノ時にココへ来る!それが春の贅沢ってもんだよ。」
「ヘェ~贅沢ねーー。」
ミッチェはアニューの煙草ケースから一本タバコを取り出し、火をつけると、アニューがもたれ掛かっている枯木を空のほうへとゆっくり見上げた。
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