3/3
前へ
/14ページ
次へ
「では今日は重曹尽くしということで、夕飯はローストチキンにしましょう。重曹にはお肉を柔らかくする作用もあるのですよ」 「え、それ本当? ケーキを膨らませるだけじゃないの?」 「ふふ、重曹は本当に奥が深いですから。野菜のアク抜きにも使えますし」 「う~ん、重曹、おそるべし……」  始める前はこんなことが思い出になるのかと思ったが、コロナと一緒にこなす家事はたしかに楽しかった。 「家事ロボットは家事を肩代わりする物です。だから、本当はこんな感情AIは無くても良いのだと思います。ですが、私を作った人たちは私にコミュニケーションAIを、感情を付けました。とても不思議でしたが、今では感謝しています」 「感謝?」 「はい。家事を楽しむこと、もっと良くしたい欲求、家人が心地よく過ごせているかの不安、そして、美味しいと言ってもらえた時の喜び。どれも私にとって大切な思い出です」  正直驚いてしまった。何でもそつなくこなしているように見えたが、コロナはこんなにも色んなことを悩んで感じていたのかと。 「私は家事の楽しさを知っています。だから、あなたと一緒に過ごす毎日が大切な思い出です。ただ、もしも許されるならあなたと一緒に家事をしたいのです。私の知ってる楽しみを、少しでも知って欲しいです。あの、だめでしょうか?」  それは、コロナが初めて口にするお願いだった。 「そんなことで良ければいくらでも。じゃあ、コロナ先生ご指導お願いします」 「ふふ、私の指導は厳しいですよ」  そんな冗談を交わせるほど俺はコロナに、コロナも俺に気を許してくれていた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加