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 そして、最後の時がきた。 「さて、お別れの挨拶を済ませてくれたまえ」  今日も佐伯さんは変わらず偉そうだ。だけど嫌味には感じない。本当に変な人だ。 「ええと、最後の挨拶か……どうしよう、全然考えてなかった」  本当はずっと考えてきた。だが、結局考えはまとまらなかった。 「では私から失礼して……」  コロナが一歩踏み出した。 「今までお世話になりました。今日で私はこの仕事を終えます。そしておそらく、二度と目覚めることはありません」  それは、ずっと向き合い切れなかった現実だった。 「私はあなたに比べれば、ずっとずっと短い時間しか生きていません。ですが、私の生きた時間全部がとても充実していました。あのたのそばにいて、一緒に料理をして、掃除をして、洗濯をして、その全部が楽しいひと時でした」 「そんな、俺の方こそ……それに、コロナにはたくさん貰ってばかりなのに、俺からは結局何も君にあげられていないじゃないか」 「そんなことはありません。あなたからはたくさん贈り物をいただきました。私に人間と同じように接してくれました。素敵な名前をくれました。数え切れないほどの思い出をいただきました。そして……」  コロナはそこで一度言葉を切って、少し赤らんだ顔を向けた。 「私にたくさんの愛を贈ってくださいました。とても、とても嬉しかったです」
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