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「お待たせしました。本日は鯖のみぞれ煮、里芋とタコの煮物、ホウレン草のお浸し、そして豚汁です」
「うわ、今日も豪勢だな」
一人暮らしが長かったせいか、まともな手料理を見るだけで求婚したくなる。
「お口に合うといいのですが……」
そう言って彼女も俺の向かいに座る。
「いただきます」
さっそく煮物を一口いただく。うん、味がよくしみてて美味しい。
そう伝えようと顔を上げると、彼女は美しい所作で同じ食事を食べていた。
……うん、何度見ても驚かされる。彼女の美しい所作にではなく、まるで本当に同じメニューが並んでいるように見えることに、だ。
そう、実はここには一人分の食事しか用意されていない。しかし、どう見ても二人分の食事が並んでいるように見えた。
「どうかしましたか? なにか私に不手際があったでしょうか?」
「い、いや、そんなことないよ! この煮物も美味しいし」
「そうですか。ありがとうございます。あの、本当に何か問題があればおっしゃってくださいね。まだまだ私、不慣れなことばかりですので」
少し不安そうな顔を浮かべて気を使ってくれている。
「ほ、本当に大丈夫だから。君はやっぱり綺麗だなって思っただけだから」
「まあ、ふふ。ありがとうございます」
そう言って、ちょっとはにかみながら笑っていた。
本当に実体はないのだろうか? そんなバカげた疑問を浮かべてしまうほど彼女はリアルに、まるでそこに居るかのように映されていた。
可愛い女の子が目の前で食事をしているようにしか見えないが、それはただの映像、ホログラムなのである。
彼女の分の食事も、そして彼女自身も。
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