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「コロナの調子はどうだい?」  毎週行われている開発者への定期報告だ。彼女のことをコロナと呼ぶことにしたと言ったら、開発陣もコロナと呼ぶようになっていた。 「はい。特に問題もなく、むしろ毎日美味しいご飯を食べさせていただいてます」 「食べさせて? あれ? あの子に介助機能はないはずだけど……」 「いえ、美味しい食事を作ってもらってるって意味です」 「なんだそうか。紛らわしいな。てっきりあの子が学習して、新機能を獲得したのかと思ったよ。やはりそこまで勝手に進化はしてくれないか。だがしかし、ここまででも私の予想を十分に超えた行動をしているし、あるいは……」  この、話し始めたと思ったらすぐさま自分の世界に閉じこもっている人がコロナの開発者の一人、佐伯さんだ。  主にコミュニケーションAIの開発に関わっているらしい。 「あの、佐伯さん。やっぱりこのままコロナをうちに置く訳にはいかないのでしょうか?」 「うん? ああ、それは無理だ。君の話を聞く限りコロナは問題なく稼働しているようだが、コロナはまだ試作段階だ。ハード面もソフト面もどこに負荷がかかっているのか、故障個所はないかを確認しなければならない。そして、君との貴重な経験を吸い出して他の機体にフィードバックせねばならんからな」 「そうですか……」  試験期間が終わったらコロナは消えてしまう。今後製品版を作るためにデータを採取する。元々そのために作られた機体なのだ。 「ふむ? そんなにあの子が役に立ったのかい? それは嬉しいことこの上ないな。まだまだ試したい子はたくさんいるんだ。君さえ良ければまた別の子のテストを手伝ってくれないか?」 「いえ、それはちょっと……」  俺は、便利な誰かが欲しい訳じゃない。コロナに居て欲しいだけだ。 「……ふむ、そうか。コロナのことを大事に思ってくれているのだな。ありがとう。コロナの開発者として、いや、生みの親の一人として礼を言う」 「いえ、そんな」 「そして、申し訳ない。私たちはそんな君の想いを蹴ってでも研究を進めなければならない」  そういう契約だった。そう、最初から…… 「彼女は、彼女のデータは今後のために必要だ。その経験や知識はこれから生まれてくる姉妹機に引き継がれていく。だから」  佐伯さんは一度息を整えてから、コロナと同じ優しい笑みを浮かべて続けた。 「あの子にたくさん思い出をあげて欲しい。きっとあの子も、君との思い出をたくさん残すことを望むはずだからな」
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