ep.1 たまには精神操作でもいかがです?

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 母親はふと気づくと、ホットケーキをトレイに乗せて息子の部屋の前に立っていたというのだ。  自分が作ったのか、それとも出来合いのモノを買って来たのかは分からなかった。 ただ彼女はホットケーキを持って、息子の部屋の前に立っていたのだという。  その時は「こんな事もあるのだな」と気にも留めなかったらしい。  しかしそれからも、彼の家族達に不可解な事が起こり続けることになる。  父親は仕事の準備を済ませ家を出ようとした時。  息子が「仕事に行かないで」とごねたことがあった。  …ふと気付くと息子の寝るベッドに座っていた。  時計に目をやると、家を出ようとした時から6時間が経過していたという。  もちろんその間の記憶は無くなっていた。  特に母親は頻繁に記憶を失った。  気づくと彼の好物を用意していたり…  彼の欲しがっていたゲームを大量に買い込んで玄関に立ち尽くしていたり…  他にも祖母や仲の良い友達もたびたび意識を失う事が起こった。  それらの事柄にはいくつかの共通点があった。 『記憶を失う前に息子と話している。』 『無意識のうちに息子の望みを叶えている。』  これに気づいた父親はまさかと思いつつ…  息子に対する不信感にも似た感情を抱き始める。  そんなある日の事だ。  父親がいつもより早めに帰宅する日があった。  家に帰ると、今日は仕事をしているはずの妻の車があることに気づく。  不信に感じてドアを開け、急いで息子の部屋のある二階に向かった。  そこで父親は、息子へ抱いていた不信感が恐怖に変わったのだった。 父親が見たものは、妻が息子にホットケーキを食べさせてあげているという微笑ましい光景。  しかし着替えの途中であったのか、妻の服は中途半端に肌けており。  その表情に力はなく、目は何処を見ているのかもわからず、口からはよだれを垂らしていた。  そんな妻に息子は 「お母さんありがとう。今度はオレンジジュースを持って来てよ。お願い。」  そう言われると妻は 「あぁ…あ…ああ…」  言葉と呼べない唸りのような言葉を発して立ちあがり、そのまま台所へ向かった。  それを見た時に父親は、やっと自分と妻が意識を失う理由を理解した。 …息子には、他人の意識を操作するような能力がある。  その後、息子を問い詰めても要領を得ず。  それどころか、意識を失うことも多くなっていった。
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