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「…」
初めて話したときの刺々しい態度はここにはなく。
俺を見つめる彼女の目は恋をしそうになるくらい…
「君はひとりじゃない。」
沖田かなの身体がふわっと光る。
美しさと錯覚するくらい綺麗な光。
ダストの光。
俺の身体の重さも嘘のように軽くなる。
沖田かなは泣いていた。
色々と思うところがあったのだろう。
「かなちゃん、お母さんを元に戻そう。」
…
ママは恋する乙女のようだった。
「パパ今日も素敵ね。かな、パパって世界一スーツが似合うと思わない?」
「似合ってると思うよ。」
「いやぁ、2人ともそんなに褒めないでよ。じゃあパパは仕事に行ってくるね。」
「いってらっしゃい。」
娘の前でもイチャつく2人。
どんな場所でもノロケる夫婦。
「本当にバカね」と思いつつ。
そんな2人を見ているのが大好きだった。
パパが死んじゃったとき。
泣き崩れたのはむしろ私の方で…
そんな私を強く抱きしめたママは、決して泣かなかった。
「パパは、かなの泣いてる所見たくないと思うよ。ほら、笑え。笑え。」
いやってほど泣いて、喉が痛くなるまで叫んだ。
やっと落ち着いた私の顔をつまんでママは…
「あんた今すっごい不細工。せっかく可愛く産んであげたんだから、ちゃんと可愛くいなさい!」
そう言ってにっこりほほ笑んでくれた。
その笑顔に、私はとても救われたんだ。
私はママを尊敬した。
私よりも絶対に辛いはずなのに、なんて強い女性なんだろうと…
ママは…パパや私のために泣かないんだ。
そんなママが、私は何よりも誇らしかった。
パパのお葬式の日
「旦那さん、残念だったね。奥さん大丈夫かい?」
「平気ですってば!私より辛気臭い顔しないでくださいよ!」
「大変だったねぇ。何かあったらいつでも頼っとくれよ。」
「ありがとうございます。むしろご迷惑をおかけしてすいません。おば様こそ何かあったら話してくださいね!」
ママは明るく親戚の人と話していた。
私もママを見習って、いつまでも泣いてばかりじゃ駄目だと思いはじめてた。
お葬式のあと家に帰って私達はすぐに眠った。
思った以上にお葬式って疲れる。
なんか寝付けなくってリビングに行った時…
わたしは見ちゃったんだ。
タンスに掛けてある…
パパのお気に入りのネクタイの前。
あんなに強いママが…
身体を震わせて泣いていた。
平気なはずないじゃん。
悲しくないはずないじゃん。
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