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父親は彼の能力が他人に悪影響を出さないため…
またはただ恐ろしかったのか。
息子を田舎の病院に移したのだった。
…
病院は、田んぼと森に囲まれた場所にあった。
大きな建物ではあったが、もともと白かったはずの壁が少し黄ばんでいる。
古い病院なのだろう。
中に入りエレベーターで彼の病室のある階へ向かう。
彼の部屋の前には医師と何人かの看護婦、母親と思われる人が立っていた。
彼の病室には黒いカーテンが掛けられていて中が見えない。
俺は母親と思われる人に軽く頭を下げた。
「具体的な話は車の中で聞いてます。一人で彼と話をしてきます。」
母親がコクリと頭を下げる。
医師達はどうしていいのかわからないと言った表情だ。
看護婦の一人がドアのカギを開けてすぐに離れた。
ガチャリ。
中に入ると、窓という窓はすべて閉め切られ、外側の窓にも黒いカーテンが付けられている。
明かりはついてはいるものの、妙に暗い。
6人分のベッドが置いてあり、窓際の一番隅のベッドに彼は寝ていた。
枕に頭を置いて布団をかぶっているものの、耳にはイヤホンをつけて音が漏れてる。
起きてはいるみたいだ。
「だれ…?」
すぐに俺に気づいたようで、イヤホンを外して上半身を起き上がらせる。
「こんにちわ。鹿野灯矢くんだね。失慰イノです。」
「父さんが言ってた…専門家のおじさん?」
おじさんて…
「まだ21歳だ。お兄さんと呼びなさい。」
「…ごめんなさい。…お兄さん。」
意外と素直な子のようだ…
「何を聴いてんだ?音楽好きなのか?」
「好きってわけじゃないんだけど…この部屋、テレビも無いし。お父さんの趣味のCD。」
「どれどれ…おお!!リバティーンズじゃんか。高校の時良く聞いたよ…あと『Room on Fire』、ストロークスの2ndアルバムだな。お父さんいい趣味してんなぁ。」
どちらとも名盤だ。俺が死んだ時一緒に墓にいれてほしいくらい大好きなCDだ。
「そうなの?どれも英語だし、何を歌ってるのかも僕にはわからない。」
「そりゃそうだ。さては洋楽の聞き方を知らないな?」
「…聞き方?そんなのあるの?」
「あぁ。日本語と違って意味がわからないからこそ、どんな気持ちの時にでも聴けるんだ。」
「…どんな気持ちの時…でも?」
「悲しい時に聞けば悲しい歌になるし、嬉しい時に聞けば、楽しい歌になる。」
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