ep.3 たまにはミルクでもいかがです?

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「もしもし…あたし産んだからね!ちゃんと母親になったんだから!ねぇッ!聞いてる!?」 「クスリ…注射器…かずま…きっと2人でも幸せになれるよね…」 「すいません…1カ月…ほど…休ませてください。いえ…はい…はい…では…。…お金…どうしよう…」  あぅ、あぁ 「かずま…ごめんね。わたしおっぱい出ないみたい…」 「愛してるよ…なんで…なんで…ちっとも泣きやまないの…?」  おぎゃぁっおぎゃぁっ 「うるさいんだよ!なんで私ばっかり責められなきゃいけないんだよ!」 「もう…お金なんて…ないんだよ…あんたを生んだせいで…卓也にも逃げられて…」 「食べる物はもうないんだよ…!これは私のクスリよ!たべものじゃねぇんだよ!」  おぎゃぁっおぎゃぁっあああッ 「うるせぇんだよ!だまれよ!そのまま泣いてろよ!」 「…何よ…なんで部屋の中…こんなになってるの?あんた一体何をし…ーーーーー」 … 部屋は静かなものだ。 ガムテープで密閉された部屋は薄暗く、お香と腐敗物の匂いで満たされている。 玄関に置かれた粉ミルクの上に「かずま用」と書かれたメモの切れはしが置いてあった。 それがおそらく…赤ちゃんの名前。 白石かずま。 汚物まみれの掃除されていない不潔な部屋。 生後間もない赤ちゃんがいていい場所じゃない。 人間がいていい場所じゃない。 俺の瞳孔は開いていた。 悪臭に鼻を抑える事も無く、目の前に集中する。 数メートルの短い廊下は、心の準備をするためにはあまりにも短かった。 「…ふぅ」 小さく呼吸して身を隠しながら進む。 部屋を覗くとあんなに美しかったダスト能力体がうなだれていた。 彼女もまた溶けたように形が崩れていた。 お香の効き目があったみたいだ。 ダストが空気中に分散して、部屋がきらきらと光ってる。 勝負は…一瞬だ。 俺の能力には「ロストマンの名前」と「能力名」が必要だ。 生後3か月の赤ん坊が自分の能力に名前を付けているはずは無い。 本来ならその場合は能力名は必要ない。 しかし今回は俺が勝手に「プラグイン・ベイビー」と名付けた。 不安はあった。 なぜならお香の効果は、俺の能力にも影響がある。 俺の能力の精度も下がっている。 普通なら、近くに近づけば手をかざすだけで能力は発動する。 しかし今回はあの子に触れて直接能力を発動するしかない。 「…」 部屋を見渡すと、家中のものがドロドロと溶けている。
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