ep.3 たまにはミルクでもいかがです?

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おれが白石かずまの目元を抑えたのは… ベッドの下で…上半身を失った母親を… こんな…嘘みたいな現実を… この子が見ないで済むように。 … 白石かずまから能力を奪った後。 駆け込んだ警察は目の前の現実を直視できないでいるようだった。 白石かずまはおそらく、母親からまともな食事を与えられていなかったのだろう。 身体に傷はなかったが、数か月分の排泄物を放置していたせいで、ひどい臭いを発していた。 「イノさん!平気ですか!?服が…」 俺の洋服の肩の部分が白いドロドロに変わっていた。 けど、そんなことはどうでもいい。 「平気です。それより保坂さん、これ…。」 「なんですか…」 俺はおそらく化粧台だったであろうモノを指差した。 鏡の部分は既に形を失っていた。 俺が指差したのはその前に大量に置かれているもの。 大量の…本物の注射器だった。 「注射器…ですか?」 「使用済みのものばかりです。消毒して何度も使ってたんでしょう。」 「覚せい剤か…何かですか?」 「知りませんよ、そんなの…」 自分の子供の前で… 何度も自分に注射器を使っていたのか。 『プラグイン・ベイビー』の女のモチーフは…注射器を刺す母親の姿だったようだ。 … 保坂さんは何度も俺に礼を言っていた。 何て言っていたか覚えてない。 俺はかなちゃんと余ったお香を車に積み込む。 「これでわかったろ?俺たちの仕事は…人間の嫌な所を見る事になる。」 「…」 「俺の能力によって…白石かずまはまた何かを失う。それが何なのかわかるのは…きっとまだ先の話だ。」 「…イノさん。」 「ん?」 かなちゃんは酷く落ち込んでいる。 そりゃ…そうだ。 今回の件は、正直おれも相当キツかった。 「かずま君は…自分のお母さんを…」 「…」 「憎んでいたんでしょうか…。」 床に倒れていた母親・白石美香の死体。 俺も…あんなものを見たら…そう感じてしまう。 「わからない。けど…白石かずまが殺したのは間違いないだろうね。」 酷い扱いをされていたとはいえ、あの幼さで母親を殺したのは事実。 それが本位であったのかは…俺には本当にわからない。 「失慰さん。」 お香を車に積み込んで俺たちがそんな話をしていると、後ろから保坂さんが話しかけてきた。 「今回の事件で大学に提出するための資料、必要と言っていましたよね。」 「え?はい…」 「よかったらこれ。」
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