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「…そんなもんなのかな。」
「そう。歌詞を自分で想像しながら聞く。音楽が君の心に合わせてくれる。知らない言葉だからこそ、君に合わせて意味が変わるんだ。」
この子の無垢な表情と、大人達の恐怖の表情の差。
俺の彼への第一印象は「ただの少年」だった。
他人を無意識下で操作する能力…
そう考えていいのだろうか。
それを彼が望んで行っているのなら、言わなければならない。
「けれど、そのCDと人間は違う。」
「…え。」
「君に合わせて人間は変わらない。変えちゃいけない。」
「…」
「話を聞かせてくれるかな?君の力の。」
鹿野灯矢の入院はあくまで両足が動かなくなったからだ。
彼の異能力と入院は関係がない。
しかしその病室は、まるで監獄のような重い空気を持ち、まるで彼を監視するような気配さえ感じた。
「ねぇ、けむりくさい…これ…なに?」
俺は彼の机の上に皿を出し、お香に火を付けた。
少し薬臭い煙が出る。特別なお香。
「まぁ…蚊取り線香みたいなもんかな?」
「ふぅん。」
…
「目の中のゴミ…あるでしょ?」
彼はゆっくり語り出す。
自分に起きた奇妙な物語のプロローグ。
「事故の後、僕、お母さんに仕事に行って欲しくなくて「行かないで」ってお願いしたんだ。」
年齢に見合わない、妙に落ち着いた口調。
「そしたら…目の中のゴミが、光りだしたんだ。お母さんの顔がだんだん眠たそうになって、その場で…僕が眠るまで一緒にいてくれた。」
「そこで自分の能力に気づいたのかい?」
「お婆ちゃんとか…友達のみっちゃんとか。だんだん…これは僕がやってるんだなって。」
父親から聞いた不気味さはそこには無く、
鹿野灯矢は俺が思っていた以上にただの7歳の少年だった。
「あの光は…一体何なんだろう。」
「それは目の中のゴミじゃないよ。」
「…そうなの?」
「能力者の力の源とされるエネルギーだ。俺達は『ダスト』って呼んでる。能力者にしか見えない。」
「ダスト…」
「目の中のゴミって、視線に合わせて動くだろ?けどダストはそれとは関係ない動きをする。」
鹿野灯矢は、目をきょろきょろさせる。
ちょっと面白い。
「本当だ…」
「ダストって言うのは空気中に含まれていて、能力を使う時に光る以外はただのホコリみたいなもんさ。」
「…へぇ。」
彼はまだ目をきょろきょろさせている。
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