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「はい。ロストマンの能力は何かを失った代償です。失ったモノをもう一度手にした時、ロストマンは力を失います。」
これは本当。
「しかし…あの子の両足はもう戻りません。義足を作ってはいますが…」
母親のこの言葉は当然の流れだ。
両足を失ってから能力を身につけた鹿野灯矢に対する、当たり前の考察。
俺はコーヒーを一口すすった。
くそう。ブラックだ。
「彼が失ったモノは、両足ではありません。」
確かに彼は両足を失ってる。
しかしここで言う『失ったモノ』とは、能力を得るために対価となったモノの話だ。
「両足を失ったから、ロストマンになったわけでは無いということでしょうか?」
父親はすぐに理解してくれた。
「そうです。」
両親も…または俺も。
結論に至るには少し早かったのだ。
「もう少し彼の能力をひも解くべきでした。ロストマンの能力というのは失ったモノに影響される場合が多いのです。」
「…というと。」
「順を追って説明します。まず灯矢君が操作出来る人は限られます。」
「…そうなんですか?」
「はい。僕も意外でした。これが彼から聞きだしたそのリストです。」
『操作出来た人物』
父親。
母親。
祖母。
見舞いに来てくれた仲良しのみっちゃん。
『操作しようとしたがダメだった人物』
医者。
看護婦。
見舞いに来てくれた友達A、B。
見舞いに来てくれた灯矢君の好きな香理ちゃん。
「最初は血縁関係のある人物のみに対応した能力者だと思いましたが、それだと『仲良しのみっちゃん』は該当しません。」
両親は目を通す。
「では灯矢くんが好きな人物なのではと思いましたが…それだと『灯矢君の好きな香理ちゃん』は操作可能なはずです。」
「…では…」
「このリストを見て、彼から話を聞いて、仮説ですが答えを出しました。」
「…教えてください。」
「灯矢君が操れるのは、彼が『自分に好意を持ってる』と感じている人物。」
「…灯矢の事を…」
灯矢くん『が』好きな人物。
ではなく
灯矢くん『を』好きな人物。
「つまり彼の能力は『自分を好きな人』が対象になる能力という事です。」
そう。
この能力は彼のわがままなのだ。
自分の事を好きでいてくれる人物に、自分の言う事を聞いてほしい。
そんな子供らしい、ただのわがまま。
ただしそうなると…
これは言わなければならないことだ。
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