ep.1 たまには精神操作でもいかがです?

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「ここからの話は、部外者の俺があまり踏み込んではいけない話ですが…」 「…はい。」 「彼は言ってました。「最近、お父さんに能力がかかりづらい」と。」  両親二人の顔が同時に濁ったのを感じる。  そう、ここまでの推論が当たっているのであれば… 「それは、灯矢君が『お父さんに愛されてないのでは』と感じているからではないでしょうか。」 「…そんな…私は…灯矢を愛しています。」 「貴方の気持ちは正直関係無いんです。灯矢君がどう感じているか…今回の場合はそれが重要なんです。」 「…」 「灯矢君が失ったモノ…両足では無く、それなんではないでしょうか。」 「そんな…」 「ここへ来る車の中で、あなたは『息子が恐ろしい』と言っていましたね。そう言う気持ちが、少なからず彼に伝わっていたんでしょう。」 「しかしそれはあの子がロストマンになった後の話です。それ以前は普通に接していたつもりだ。」  失ったからロストマンになるのか。  ロストマンになったから失うのか。  それは専門家の間でも意見が分かれる。  しかし今回の場合。  灯矢くんはおそらく、ロストマンになる以前から…  きっとそう感じていたんだろう。 「俺には、それはわかりません。」  能力の代償として、父親からの愛を失った。  あくまで仮説だけど、それが原因であるなら不幸中の幸いなんだ。  だってロストマンが失うモノはほとんどの場合。  もう二度と戻らない事がほとんどなのだから。 「けれど…もしそれが原因なら…」 「そうです。」 「…」 「彼が失ったモノを、もう一度与えてあげましょう。」  僕は、  たくさん服を持ってる。  どれもお母さんが選んでくれた。  たくさん玩具も持ってる。  どれもお母さんと買いに行った。  お母さんは何か買ってくれる時、僕にこう言う。 「お父さんのお金で買ったのだから、お礼はちゃんとお父さんに言いなさいね。」  僕には  たくさん友達もいる。  お母さんは「いい友達だね」と言ってくれる。  一人好きな子がいる。  お母さんは「可愛い子だね」と言ってくれる。  お母さんは誰かと遊びに行く時、僕にこう言う。 「お父さんが帰ってくる前には帰りなさい。一緒にご飯を食べましょう。」 お礼…?一緒に…?なんで?  一緒に買い物に行ってくれたのはお母さんだ…  料理を作ってくれるのもお母さんだ…
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