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お父さんなんて…かまってくれないじゃないか。
遊びの予定も仕事が優先。
遊ぼうと言っても…「もう寝なさい」
何か見せに行っても…「もう寝なさい」
僕はただ、かまってほしかっただけだ。
車に飛び出したのもそうだ。
ゆっくり走っていたから平気だと思った。
まさか歩けなくなるなんて…
思わなかったんだ。
僕が入院している間、お父さんは一回しか来なかった。
その一回だって、お父さんが僕に発したのは
「もう寝なさい」
この言葉を聞いたとき
「あぁ、僕は邪魔なのかな」
そう思ったんだ。
…
「…う…や。…灯矢。」
その声で、僕は目を覚ました。
太く、強く、とてもよく知っている声。
僕にはまだ出ないしっかりとした声。
お父さんの声。
「…お父さん。」
なんだろう…
もうあの専門家の人は帰ったのかな…
どれくらい寝ていたんだろう。
眩しい…カーテンが…あいてる。
「超神戦紅ぺテルギオン。」
「…?」
僕の好きなアニメだ…
「好きなゲームはヴェルダークシリーズ。好きな食べ物はハンバーグと豆腐の甘煮、チョコレート、明太子。好きな女の子は同じクラスの香理ちゃん。」
「おとうさん?」
「好きなカードゲームはデュエルキング、青いデッキを使ってるんだったな。そうえば、好きな色も青色だった。」
「どう…したの?」
「好きな動物は犬とパンダ。好きなスポーツはサッカー、野球。」
「………。」
「まだまだあるぞ。赤みの刺身、神田屋のプリン、アイスクリーム、ゴラドンボール、ブケモン、限界ウォッチ…それに」
「……。」
「それに…お母さん。」
「…」
「お前の好きなものは何でも知ってる。」
お父さんは、足の動かない僕を強く引き寄せた。
そして優しく抱きしめた。
「お父さんもな。お前の母さんの事が一番好きだった。」
「…」
「けどな。今から7年前、母さんと同じくらい好きなモノができたんだ。」
「…」
「お前の一番好きな物は、俺じゃないかもしれないな。」
「…」
「でもお父さんの一番好きな物は…7年前、お前が生まれてからずっと…お前と母さんだけだ。」
なんで…
「愛している。」
やめて…
そんなに…強く…
言葉が…涙が…
お父さん…
僕も…
大好きだよ。
…
鹿野灯矢が起きた時、カーテンは全部取り去られていた。
田舎の夕焼けってきれいだ。
緑豊かな場所っていいもんだ。
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