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息子の巣立ち
息子たちは思春期を迎えた。幼い頃は一緒に遊んでいたのに中学・高校生になると部活や塾で帰りが遅くなった。僕がいない夕食のテーブルで嫁さんが一人で食べて、テーブルの上に帰ってきた息子のために夜食を置いておく日が続いた。
高校を卒業した長男は、家を出て下宿先から大学へ通うようになった。次男も後に続いて家を出て嫁さんが一人家に残された。
僕は部長と部下の板挟みに遭いながらもローンの残りを返済すべく会社に居続けている。息子たちは、学業とアルバイトの日々を過ごしてる。家の風呂は嫁さんが一人で入る。仲間と共に酒のつきあいをする僕は朝帰りで家には滅多にいないのだ。
僕は55歳になり、家のローンを完済した。家の名義を書き終えたら定年が間近に迫っている。
息子たちは大学を卒業すると就職した。その後、恋人を連れて家を訪ねた。近々結婚する息子たちのために貰ったボーナスを使わずに貯め込んだ。
それから息子たちは結婚した。僕の貯金は息子たちの結婚資金に使われた。息子が独立したら、僕は定年を迎えた。退職金を投資に使い、長い間嫁さんとのすれ違いな生活を取り戻そうとした。
町内の事は嫁さんに任せきりだったので、いきなり町内会に参加するには気がひける。僕はゴミ出しから始めた。溝掃除とかバスツアーの交渉も僕が引き受けた。案外やる事がある町内会に参加して少しずつ居場所を見つけた。
時々息子たちが孫を連れて家を訪れる。爺いになった僕は、孫の相手をする。嫁さんは、おばあちゃんと姑の顔を使い分けて息子の家族と応対をする。女同士の冷たさを感じた僕は、板挟みの生活を最後まで続けるのかと苦笑いした。
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