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魂
僕には家族がいる。
妻と一人息子の透の三人家族だ。
だが、僕はたった今死んだ。
急に死んだわけではない。
癌だったのだ。
家族に見守られる中、白い病院の白いベッドの上で意識が薄れていくのを感じながらだ。
妻の啜り泣く声、透の泣き喚く声が徐々に聞こえなくなった。
でも、何故なのか今は自分の骸とそれを囲む妻と透の姿が目に入ってくる。
すると聞き覚えのある懐かしい声が聞こえてくる。
「お前も来たのか。まぁ、見ていたからそろそろ来る頃かな?とは思っていたが」
僕は声のする方を見てみるとそこには電球のように黄色く光るがその周りを包むように白い光の膜が張られたそれを見た。
僕は察したように「お父さん?」と光るそれに訪ねてみる。
「よく分かったな。お前が見てるものは俺の魂だ。俺にもお前の姿がそう見えているぞ」光るそれは僕が結婚する前に死んだ父の魂だった。
父にも僕が魂になって同じ様に見えていると言う。
「幼い透を残してよく来れたものだな、まったく」呆れたように声にして父が言った。
「僕だって死にたかった訳じゃない」父とこんな言い合いがまた出来るとは思ってもいなかった僕は少し嬉しさすら感じた。
「次はお前が見守る立場だ。透を守ってやるんだぞ」そう言い残して父の魂が徐々に光の粉に変わって消えていく。
僕は最後に父に言葉を投げ掛ける。
「父さん、見守ってくれてありがとう」
そして父の魂が完全に消えてなくなる。
きっとおじいちゃんもお父さんを見守って役目を終えて消えていったのだ。
こうして代々、息子を見守っていたのだと。
僕はそう思った。いや、実際そうなのだろう。
「なら次は僕が透を見守る番だな」
そう呟くと息子のこれからを見守る。
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