病めるときも、健やかなるときも。

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「機嫌なおせよ。ちょっとした悪ふざけだろ」 「冗談でしていいことと、悪いことがあるでしょう」 つっけんどんに呟く私に、蒼さんは頬を緩ませる。あのときのことを思い出しているのだろうか。 その態度が余計に私を怒らせていることに、どうして気づかないのだろう。 発端は、私がスマートフォンのカメラアプリを起動したことだった。 『俺はいいって』と苦笑する蒼さんに向けて数回シャッターを切り、フォトフォルダを開いた私は――絶句した。 連続で撮影された五枚の写真には、悔しいほどお似合いの大人のカップルの姿が映し出されていた。 薄暗い廃病院のなかでたたずむ蒼さんの首には、明日香さんの白い腕がまわされ、ジーンズには美し過ぎる長い脚がからめられていた。 なかには、キスをしているとしか思えない写真まで―― 『あの頃はただのガキだったけど、今はいい男になったじゃない?』 という艶やかな声が聞こえてくるようだった。 ちなみに高田さんは、それからいくら話しかけても、何も語ってくれなくなった。 帰り道、運転をする蒼さんが『妙に肩が重いんだけど』とぼやいていたのは、おそらく何らかの怨念を飛ばされたせいだと思う。 その気持ち、痛いほどわかります。
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