病めるときも、健やかなるときも。

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「そんなことでいちいち目くじら立てるなよ」 「蒼さんがデレデレしてるからでしょ!」 「そりゃ、するだろ」 当然のように言われて絶句する。私の胸で寝息をたてる瑠璃ちゃんの体を、思わずぎゅっと抱きしめた。 「……確かに、明日香さんは美人だし、私よりずっとスタイルもいいから、そう思うのも仕方ないかもしれないけど……でも、そんなことを言うのって――」 「何言ってんの?」 運転席のドアに肘をかけながら、蒼さんが真顔で私を見下ろす。 「明日香にじゃなくて、やきもち妬いてるお前が可愛すぎてデレデレしてんだよ」 「そっ……」 「そんなこともわかんねーの? バカなの?」 「……バカだもん。悪い?」 「いや、クソ可愛い」 蒼さんは手を伸ばすと、そっと私の頭に触れた。正確には、触れないように、ぎりぎりのところまで手のひらを近付けた。 「あーっ、クソッ! 連れて帰りてぇ!!」 「蒼さん、瑠璃ちゃんが起きちゃうから……」 たしなめる私の唇に、いつものように触れないキス。 でもあの頃とは違って、蒼さんの唇のぬくもりや、息遣いを確かに感じる。 「おやすみ、静香」 急に大人の男の人の顔にならないで。 さっきまではやんちゃに駄々をこねていたはずなのに、そのギャップに、いつものことながら耳が熱くなる。
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