253人が本棚に入れています
本棚に追加
/111ページ
「そんなことでいちいち目くじら立てるなよ」
「蒼さんがデレデレしてるからでしょ!」
「そりゃ、するだろ」
当然のように言われて絶句する。私の胸で寝息をたてる瑠璃ちゃんの体を、思わずぎゅっと抱きしめた。
「……確かに、明日香さんは美人だし、私よりずっとスタイルもいいから、そう思うのも仕方ないかもしれないけど……でも、そんなことを言うのって――」
「何言ってんの?」
運転席のドアに肘をかけながら、蒼さんが真顔で私を見下ろす。
「明日香にじゃなくて、やきもち妬いてるお前が可愛すぎてデレデレしてんだよ」
「そっ……」
「そんなこともわかんねーの? バカなの?」
「……バカだもん。悪い?」
「いや、クソ可愛い」
蒼さんは手を伸ばすと、そっと私の頭に触れた。正確には、触れないように、ぎりぎりのところまで手のひらを近付けた。
「あーっ、クソッ! 連れて帰りてぇ!!」
「蒼さん、瑠璃ちゃんが起きちゃうから……」
たしなめる私の唇に、いつものように触れないキス。
でもあの頃とは違って、蒼さんの唇のぬくもりや、息遣いを確かに感じる。
「おやすみ、静香」
急に大人の男の人の顔にならないで。
さっきまではやんちゃに駄々をこねていたはずなのに、そのギャップに、いつものことながら耳が熱くなる。
最初のコメントを投稿しよう!