十六年目のファーストキス。

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結婚式はやっぱりウエディングドレスじゃなきゃ、という、寺の嫁らしからぬ母さんと咲良さんの主張により、紋付羽織袴と白無垢でごく簡単に仏前式を終えたあと、タキシードとドレスに着替え、家族だけで略式の人前式を挙げた。 裾の長い純白のドレスを着た静香が、恥ずかしそうな顔で俺の前に現われた瞬間、情けないことに涙が滲みそうになった。 指の震えを抑えながら、レースのグローブを外して、二人で選んだ指輪をはめた。 寺の息子の結婚式に、牧師なんているわけがない。誓いの言葉もない。 それでも俺達は、誰に促されるでもなく、唇を重ねた。 十六年ぶりの――そして、静香にとっては生まれて初めてのキス。 俺は、この瞬間を死んでも忘れない。 静香が閉じた瞼を持ち上げると、目尻に浮かんだ透明な雫が、薄く化粧をした頬を滑って落ちた。 風もないのにベールがかすかに揺れたのは、招待状を出せなかった古い友人が、文字通り飛び入り参加してくれたおかげだろう。 そういうわけで、おそらくあの廃病院でひとり取り残されて臍を曲げているだろう変態紳士には、後日写真で俺の嫁の最高に可愛いドレス姿を拝ませてやる。 十中八九、心霊写真になってるだろうけどな。
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