十六年目のファーストキス。

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『閉まる』のボタンを手のひらで押さえながら、すかさず噛みつくようにキスをする。 十六年前に何度も教えたはずなのに、相変わらず静香は唇を引き結んだまま、往生際悪く俺の侵入を拒む。 その初々しい様子に、余計に煽られた。 「今ので二回目。あと何回すれば慣れる?」 「そういうことじゃなくて……!」 「もっと?」 「だから違、」 必死に反論しようとする唇を塞いで、言葉も呼吸も、何もかもを奪った。 エレベーターが最上階に着くころには、強張っていた静香の体からは完全に力が抜けていた。 「歩ける?」 「蒼さんのバカ……」 「覚悟しとけって言っただろ?」 「そうだけど、初めてのときくらい、もっと……!」 「まだ足りない?」 静香の体を抱き上げ、文句ばかり言う唇を、もう何度目かもわからないキスで塞ぐ。 唇を離すと、静香の潤んだ瞳には、情けないくらいに甘えた俺の顔が映っていた。 「今日だけは俺の我が儘、全部聞いて。お願い、静香」 静香は顔を赤らめたまま、困ったように眉を寄せた。 しばらく俺を見つめたあと、ためらいがちに俺の首に腕をまわし、肩に顔を預ける。 恥かしがり屋であまのじゃくな俺の嫁の、精一杯のOKのサイン。 「ちゃんと、ゆっくり、優しくして……」 「ちゃんとじっくり、やらしく? よし任せろ」 「蒼さん!!」 静香の可愛い悲鳴を聞きながら、じれったい思いで鍵を開ける。 今夜が俺達の、十六年ぶりの最初の夜。 しかもあのときと違って、最初で最後なんかじゃない。 その奇跡に胸を熱くしながら、目の前にある静香の唇に今度こそ優しいキスをして、俺達のスイート・ルームのドアを閉めた。 『十六年目のファーストキス』 END
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