254人が本棚に入れています
本棚に追加
『閉まる』のボタンを手のひらで押さえながら、すかさず噛みつくようにキスをする。
十六年前に何度も教えたはずなのに、相変わらず静香は唇を引き結んだまま、往生際悪く俺の侵入を拒む。
その初々しい様子に、余計に煽られた。
「今ので二回目。あと何回すれば慣れる?」
「そういうことじゃなくて……!」
「もっと?」
「だから違、」
必死に反論しようとする唇を塞いで、言葉も呼吸も、何もかもを奪った。
エレベーターが最上階に着くころには、強張っていた静香の体からは完全に力が抜けていた。
「歩ける?」
「蒼さんのバカ……」
「覚悟しとけって言っただろ?」
「そうだけど、初めてのときくらい、もっと……!」
「まだ足りない?」
静香の体を抱き上げ、文句ばかり言う唇を、もう何度目かもわからないキスで塞ぐ。
唇を離すと、静香の潤んだ瞳には、情けないくらいに甘えた俺の顔が映っていた。
「今日だけは俺の我が儘、全部聞いて。お願い、静香」
静香は顔を赤らめたまま、困ったように眉を寄せた。
しばらく俺を見つめたあと、ためらいがちに俺の首に腕をまわし、肩に顔を預ける。
恥かしがり屋であまのじゃくな俺の嫁の、精一杯のOKのサイン。
「ちゃんと、ゆっくり、優しくして……」
「ちゃんとじっくり、やらしく? よし任せろ」
「蒼さん!!」
静香の可愛い悲鳴を聞きながら、じれったい思いで鍵を開ける。
今夜が俺達の、十六年ぶりの最初の夜。
しかもあのときと違って、最初で最後なんかじゃない。
その奇跡に胸を熱くしながら、目の前にある静香の唇に今度こそ優しいキスをして、俺達のスイート・ルームのドアを閉めた。
『十六年目のファーストキス』 END
最初のコメントを投稿しよう!