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どこかしら奥ゆかしげなその佇まいは
まるで淑女のようで、私に何かを訴えかけてくるようだった。
「この木にするか。」
これまでの経験からして、こういうのは直感に任せると
存外にうまくいくものだ。
私はリュックからブルーシートを出すと
日陰になるようにその桜の根本へ広げた。
一人で座るにはやや広いブルーシート。
週末に来ようものなら四つ折りにしなければならないだろう。
その上に靴を脱いであがり、私はせい、と肢体を投げ出した。
集中と緩和。
短い時間で成果を出すためには、十分な余暇が必要だ。
それが、この働き方で学んだことだった。
週の前半で蓄積した疲労を抜くべく、私はそっと目を閉じた。
穏やかな春風はいささか主張の強い桜の香りを乗せて
私の全身を凪いでいく。
時おり花の香りが鼻孔をくすぐり、
桜の隙間から指す陽の光がやんわりと瞼の裏を明るくさせる。
それがまた、なんとも心地よい。
ーー嗚呼、なんと贅沢な時間なのだろうか。
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