花見酒

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「さて、そろそろ行きますね……。 ありがとね、お兄さん。 とても嬉しかったよ。」 まるで今生の別れのような老女の声に振り向くと、 そこにはすでにその姿がなく、 桜の花びらがひとひら浮かぶワンカップだけが残されていた。 「もう少しゆっくりしていけばいいのに。」 短い出会いと惜しむ間もない別れに 少し寂しい気持ちになった私は、 残されたワンカップを手に取った。 波立つ酒には花びらがゆらゆらと揺れていた。
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