愛される自信を君にあげる

2/92

4529人が本棚に入れています
本棚に追加
/93ページ
 それだけならまだしも、彼の父親はあたしの働く会社の重役だ。いくつもの会社の役員や理事を兼任している、いわゆる資産家でありセレブリティーな人物。  住んでいるタワーマンションがテレビで何度か紹介されていた。生活感のない、ホテルのような部屋だった。  漫画や小説の主人公は、だいたい可愛い。読者がその世界に引き込まれるように、愛されるキャラクターだ。  じゃあ、あたしはどうなんだろう。  そう考えると、あたしなんて絶対にヒロインにはなり得ないと思う。  自愛的でもなければ誇りに思える矜持もない。ただ、流されるままに生きているような感覚。  そのうち、平凡なサラリーマンと結婚して、子どもは二人。もしくは出会いがなくて一生独身かもしれない。まあ、それも人生だろうと達観してしまえるぐらいには色々と諦めていた。  でも、それでも──夢を見たっていいんじゃないの?  平凡だって、誰かに愛されて幸せになる権利があるって信じたらダメ?  不釣り合いだとわかっている。けれど、彼を密かに思うことぐらいはいいでしょう?  夢の中でぐらい、あたしも物語のヒロインになりたい。 一  充実した毎日、仕事は残業なくアフターファイブは恋人とデート……なんてありえない。     
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4529人が本棚に入れています
本棚に追加