愛される自信を君にあげる

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 披露宴会場にどういった花を飾るか、皿の色、テーブルクロスの色、そういった資料だけは前もってメールや郵送でお渡しすることが可能だけれど、ドレスや会場は自分の目で見ていただきたい。  全部が全部メールや電話で決めることだって本当はできるし、時間がない人はそれを望む場合もある。  でもあたしは、人生の大事な瞬間になるであろうことを事務手続きのように簡単に決めて欲しくはない。  なるべく期待に添えたいと、たとえ残業になろうとも今までこなしてきた。  なのに、今日だけはポケットにスマートフォンを忍ばせて、いつ仕事が終わるかとドキドキしていた。  結局、案内を終えて会社を出る頃には夜十時を過ぎていて、疲労も大きかった。  こんな時間に電話していいのかな。  でも、約束したし。  ロビーを出たところにある柱にもたれかかり、緊張しながらメモを片手に電話をかけた。  呼び出し音が鳴る間、胸のドキドキが収まらなかった。  プツッと通話が繋がった電子音に、手のひらが汗ばむ。 「はい」 「あ、あのっ……」 「電話ありがとう。仕事終わったの?」  電話越しでも、三条課長は微笑んでるってわかる。  優しく甘い声。  声だけで、あたしからの電話だとわかってくれたみたいだ。 「はい……遅くなってすみません。あの、三条課長はまだお仕事中ですか?」 「俺ももう終わったよ」  話しながら駅に向かおうと、スマートフォン片手に歩き出す。     
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