愛される自信を君にあげる

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 昼に嗅いだ清潔そうな香りが、再び鼻をかすめた。  ギュッと強めに身体を引き寄せられて、ついスーツの裾を掴んでしまった。  シワになると慌てて手を離そうとするが、三条課長の言葉がそれを止めた。 「手、背中に回してよ」 「せ、なか……?」 「そう、こうして、ほら」  手を掴まれて、背中へと誘導される。  さっきよりもずっと密着した身体から聞こえる鼓動は、あたしのなのか三条課長のなのかわからない。  ドクドクって、いつもよりもずっと速い。 「い、いつまで……こうしてればいいですか?」 「嫌?」 「嫌じゃないです。だから、困るんです」  あたしみたいなのでも、三条課長に抱きしめてもらえる。  そのことが、あたしを自惚れさせてしまう。  憧れだけで終わるはずの想いは、今日だけでだいぶかさが増してしまった。  もう溢れそうになって、期待するな、ただの恋人のフリだと言ってくれないと困ってしまう。 「俺は、キミをもっと困らせたいみたいだ。性格悪くてごめんね」  下ろした前髪をかき上げられて、久しぶりに視界がクリアになった。  髪を結んでいるゴムがピッと引っ張られて外される。  量の多い髪は、パサついていてふわっと横に広がった。     
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