愛される自信を君にあげる

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 何するんですかと三条課長を見上げると、驚くぐらい近くに端正な顔がある。  薄く唇を開いた瞬間、湿った音を立てて唇が重なった。  初めてのキスは、喜びと悲しみがない交ぜになって、もう心の中がグチャグチャだ。  何度か角度を変えて口づけられても、身体はピクリとも動かないし目を瞑ることもできない。  だって、三条課長はあたしのこと好きなわけじゃない。  恋人のフリ、婚約者のフリをして欲しいから、こんな風に接してくるだけ。  それでもいいって納得したはず。  だから、抱きしめてくれたり、キスしてくれたり、喜びは確かにあって。  もう悲しいのか何なのかわからなくなった。 「ほんとに、困ります……」  やっと自由になって口から発せられた言葉は可愛げの一つもない。 「俺も困る。恋人が触らせてくれないと、我慢できなくなりそうで……本当に困る」 「今だけ……じゃないですか」 「今だけじゃないよって言ったら、笑留は安心する?」 「嘘だって思います」 「だよね。だから、キミに俺の想いを信じさせてあげるよ」  絡められた手は、あたしと違って少し冷たかった。  もう一度、唇が降りてくる。  今度は目を瞑って、ひとときの幸せをかみしめた。 六  本日はお日柄もよく、という言葉をよく耳にする。     
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