愛される自信を君にあげる

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 価値観の違いはあるものの、この国の人々は信心深く、こと冠婚葬祭に限っては多くの人が六曜を気にする。  ウェディングプランナーを始め、式場スタッフも大忙しの大安。  今日はそれに当たる日だ。  そして最近ずっと残業続きだったのは、時期的な忙しさもある。  ジューンブライドとはギリシャ神話の最高位の女神とされたヘラが六月に祭られていることから、ヘラに見守られた六月に結婚する花嫁は幸せになれるという言い伝えだが、そもそもは雨が多いブライダル業界の閑散期にあたり、そう忙しいわけではない。  暖かくなり雨も少ない三月の終わり、桜の開花宣言が先週されたこの時期、年に数度の繁忙期へと入るのだ。  流行りの庭園パーティーや、屋上階にあるスカイチャペルでの挙式が人気で、一日に三件以上の挙式披露宴も珍しくはない。  あたしも他の担当者に漏れず、一日中担当しているお客様との打ち合わせや、披露宴のヘルプに入り、ようやく昼食にありつけたのは午後三時を過ぎていた。  休憩室でコンビニで買ったおにぎりを頬張っていると、部屋のドアが勢いよく開けられて麗が姿を見せる。 「笑留~」 「麗っ、お疲れ様~」  麗は部屋に入るなり、疲れたとあたしの前の椅子に腰かけた。  かけていた度の入っていない黒縁眼鏡を外し、テーブルに置く。     
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