愛される自信を君にあげる

28/92
前へ
/93ページ
次へ
 何度か居酒屋で飲んだことがあったから、味の想像はついた。  いただきますと口に含むと、思っていたよりずっと美味しくて顔がほころぶ。 「そうやって笑ってる方がずっと可愛いよ」  カクテルと同時に運ばれてきたチーズを口元に近づけられて、無意識に唇が開いた。  あーんしてもらうとか、あたし何してんの。  三条課長の指が唇に触れて、また胸がうるさく音を立てる。  もちろんチーズの味なんか全然わからなくて、必死に咀嚼しながら飲み込んだ。 「で、どうしてさっきあんな顔してたの?」 「あんな顔、がどんな顔かわからないんですけど……小さい頃のこと、思い出してたからかもしれません」 「俺が聞いてもいい? っていうか、知りたいんだけど」 「おもしろい話じゃないですよ?」 「キミがどういうことで悲しむのか、ちゃんと知っておきたいんだよ。そうすれば傷つけなくて済むだろ?」  小さい頃は何も知らずに無邪気に笑っていた。 ──女の子はお父さんに似るって言うけど、あんまり似てないんだね。 ──お父さんに似てたら、めちゃくちゃ美人になってそうだよね。  そう言われた意味を、お母さんに似てて可愛いね、まだそう思えていた頃は。  小学校高学年にもなれば、言葉の裏を読むことぐらいできる。  お母さんに似てブス。     
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4557人が本棚に入れています
本棚に追加