愛される自信を君にあげる

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「今はしないけどね。大学の頃はしょっちゅうだったかな。うちの会社って元々は俺の祖父が始めたんだ。で、今の重役たちはほとんどが親戚。三条本家の直系だからって理由だけで、将来は会社を継いでくれって言われ続けたし。やりたいことがあったわけじゃないけど、そういう決められた場所にすんなり収まるってことに、昔は抵抗があったんだよね」  そうだったんだ。  三条課長のお父さんが専務だから、将来の代表取締役だと言われているのかと思っていたけど、実績もさることながら本当のサラブレッドだったんだ。 「抵抗、なくなったんですか?」 「そうだね……結局は俺が逃げたマンションも父親の持ち物なわけで、何不自由ない生活ができてるのも親のおかげだって気づいたら、抗うのも馬鹿馬鹿しくなってさ。ただやりたいこともないのに、敷かれたレールの上を走ることに反発してただけだって、父さんは気づいてたんだろうな」  三条課長を特別視してた。お金持ちで悩みなんかなくて、きっと思い通りにならないことなんて一つもないんだろうって。  何もかもを持っているように見える麗だって、人並みに失恋してやっと恋を成就させた。  勝手に思い込んで、劣等感を抱いていたのはあたし自身。  そう気づかされたら、少しだけ三条課長に近づけたように思えた。  案内されたのは、交通の便もいい都心の一等地。見上げる首が痛くなってしまうほど高いマンションの上層階だった。近くに公園もあり、葉桜になりかけてはいるが一面が桜色の絨毯となっていて、天気が良ければさそ美しい光景だっただろう。     
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